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顧客や取引先から理不尽な要求をされるカスタマーハラスメント(カスハラ)が社会問題化している。その背景や働く人の備えについて、カスハラ対応に詳しい一般社団法人「ココロバランス研究所」(東京)で理事を務める東洋大の桐生正幸教授(犯罪心理学)に聞いた。(山下真) ■被害者意識型、ゆがんだ正義型…カスハラで起こりやすい四つの類型と対応法【イラスト】
-近年、カスハラが社会問題となっている。
桐生正幸教授
「カスハラという言葉が広がる前は、悪質クレームと言われていた。店のサービスに問題があれば客は苦情を伝えるが、その際に関係のない経営方針を暴力的に責め立てたり、金銭を要求したりするなどの行為が2000年ごろから増加した。この行為を指す言葉としてカスハラが浸透し、国も対策に乗り出した」 「長らく企業には『客のニーズに応えて一人前』『ややこしい客にも対応するのが優れた従業員』という意識があり、ある程度は悪質クレーマーにも対応してきた。自社の客にクレーマーはいないと隠していた部分もある。客に対して過度なサービス提供を続けてきた結果が、カスハラを助長してきたという側面を企業も自覚しないといけない」
-法律はカスハラについて、社会通念上、許容される範囲を超えた言動で就業環境を害する行為と定義する。暴力や脅迫などは論外だが、正当なクレームもある。どう線引きするのか。
「どんな行為であれば許容範囲を超えるのか。明確な線引きは難しく、微細な部分になると、企業側が判断するしかないというのが現状だ。業種や業態によっても線引きや対応法は変わってくる」 「例えば、スーパーと百貨店ではカスハラの質は違う。スーパーでは客が『レジの打ち方がおかしいんじゃないか』などと言うが、百貨店では穏やかな口調で『電球がちょっとおかしいので、取り換えに来てくれませんか』などと求める。客の要求内容が常識的かどうかで考えるしかない」
-なぜ、カスハラが起きるのか。
「店の対応の不手際や企業のシステム不備など、何らかのきっかけがある。もちろん、接客が悪ければ誰でもイライラするし、自覚のない“隠れカスハラ”は多くの人にある。それが過度な攻撃行動として表面化するのがカスハラだ」 「一般的には攻撃性が高い、精神的に不安定などの人が加害者になりやすい。一方で従業員の対応次第ではカスハラにつながらない。客の資質、従業員の対応スキル、会社の方針、の三つのミスマッチからカスハラが引き起こされる」
「従業員の心理的な安全を担保する必要がある」
「サービス提供のあり方など時代の変化もある。コンビニで酒を購入する際、近年は成人かどうかを確認する。店員が確認ボタンを押すよう求めると『俺はどう見ても大人だろう。ばかにするな』と怒る人がいる。以前はボタンを押す必要はなかったし、店員が何も言わず応じることもあった。客がサービスの変化に対応できず、カスハラが生まれることもある」
-どうすればいいのか。
「土下座の強要や胸ぐらをつかむなどの行為は、暴行とか威力業務妨害とか現行法で対処できる。問題はグレーゾーンの行為だ。カスハラは企業側の努力で大半を防ぐことができる。まずは現場でどんなカスハラが起きているか、企業が分析しないといけない」 「大前提として、従業員の個人任せにしてはいけない。企業はマニュアルやガイドラインを作り、具体的にどんな行為がカスハラに当たるかを明示し、従業員の心理的な安全を担保する必要がある」
-具体的には。
「私たちの研究では、カスハラには大まかに四つの類型がある。例えば、被害者意識型は『この商品を使ってけがをしたら、どうしてくれるの』などと言ってくる。こうした場合は『お気持ちは分かります』と受け止めて解決策を丁寧に説明するのがよく、『気にし過ぎですよ』などと言えば火に油を注いでしまう」 「こうした内容が記してあると従業員は安心する。現場の声を聞き、ベテラン従業員にノウハウを共有してもらう。そしてカスハラ対応の流れや責任の所在、従業員がメンタル不調に陥った際の対応策まで盛り込み、実効性のあるマニュアルを整備してほしい」
企業の半数、マニュアル未策定 全国実態調査
顧客らが過度な要求をするカスタマーハラスメント(カスハラ)を巡り、半数の企業が対応マニュアルを作っていない-。カスハラの全国実態調査で、こんな結果が明らかになった。全ての企業や自治体に対策を義務付ける改正労働施策総合推進法の施行を10月に控え、対応が進んでいない状況が浮かび上がった。 調査は昨年7月、企業の危機管理コンサルティング会社「エス・ピー・ネットワーク」(東京)が実施。クレーム対応経験のある20~60代の会社員1030人が回答した。
クレーム対応などのマニュアル策定について「ない」が49.8%、「マニュアルはあるが、カスハラ対策の定めはない」が14.5%に上った。いずれも「定めている」のは24.2%にとどまり、業種別では金融業・保険業、交通インフラ業、卸売り・小売業が上位に並んだ。 カスハラ被害を個人顧客から受けたことがある人は72.1%、法人顧客からは51.3%。具体的な行為として「道端で怒鳴りつけられ、土下座を強要された」「酔った得意先から殴られた」「自社の経営者が取引先担当者を呼び出し、4時間拘束して怒鳴り続けた」などの例が挙がった。
同社は「カスハラ対策は依然として不十分。会社として従業員の対応を後押しする姿勢を見せなければ、従業員を守れない」と指摘した。(山下真)
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